前回のレポブログのVol.54と今回のレポであるVol.56の間には【Live 12】が発表されました。
ので、プレゼンターの中にはLive 12を使ってる方もいたりして。
Ableton Meetup Tokyoもオンライン配信してましたね。
Ableton Meetup Tokyo Vol.55 Live 12 Online Preview
そして今回のテーマである【ミックスダウン】は関心が高かったようで、会場は大盛況でした。
Ableton Meetup Tokyoとは【Abletonユーザーを横断するコミュニティーの構築】を目的に隔月で開催されているイベント。
簡単に言うなら【Ableton Liveユーザー同士、仲良くなろうよ】と言う趣旨・・・ではあるものの、イベントの面白さが噂になったのかAbleton Live以外のDAWユーザーが参加することもよくある話。
オーガナイザーのKoyasさん曰く【大人の部活動】。
ちなみに、このレポを書いてる僕(akim)も2018年にAbleton Certified Trainerになりました。
『Ableton Meetup Tokyo(略称 AMT)って、いったいなんなの??』という方、まずは過去のAMTレポートをお読みください。
Ableton Liveユーザーのみならず、音楽制作に関わっているのであれば興味出ること間違いなし。
前置き
Ableton?
今までのAbleton Meetup Tokyoもお読みいただくとして、まずは基礎知識。
【Ableton】とは【Live】というDAW(音楽制作ソフト)を作っているメーカーです。
直感的な操作が可能で楽器のように扱うことも出来るので、世界中のTrack makerやDJ/パフォーマーなどに愛用されてます。
その中でも、Abletonに知識・技能を認められた方々をAbleton Certified Trainer(Ableton認定トレーナー)と呼びます(自分で言うの、ちょっと恥ずかしいけどw)。
Ableton Meetup Tokyo
Ableton Meetup Tokyo(略称AMT)とは
が共同オーガナイズしているイベントです。
イベントの目的はAbletonユーザーを横断するコミュニティーの構築です。
簡単に言うと【Abletonユーザー同士、友達になろうよ】的な。
公式サイトや公式Facebookページもチェック!
ご紹介
2024年の年明け一発目、1月19日に六本木CUBEで行われた【Ableton Meetup Tokyo Vol.56】。
(Ableton Meetup Tokyoー略称:AMT)
今回は、およそすべての楽曲制作者が一度は悩み、あるいは今でも悩み続けている【Mix(ミックス)】に大きく関わる【ミックスダウン】についての回でした。
Koyasさん曰く『六本木CUBEはクラブなのでスタジオの音響設備とは違うんだけど、アーティストによるミックスの入門編の話を聞いてみたいというのが今回の狙い』とのこと。
やっぱり、微妙な変化なんかはスタジオとかじゃないとわかりづらいんだけど、それでもミックスダウンに必要なTipsや心構えなんかはちゃんと伝わったのです。
なんていうの?神回ってヤツ?
で。
今回の登壇者やDJ、Touch&Try、司会のご紹介から。
紹介は登壇順、またはDJの出番順です。
なお、リンクはご本人が紹介したもののほかに、『ここを見れば情報を得られるかな?』というakimのおせっかいで貼ったものもあります。
登壇者


Sakura Tsuruta
DJ
DeepHouse/DeepTech を主軸とするDJ,トラックメイカー。都内のクラブやミュージックバー等でプレイしている。
ファッションカルチャーから影響を受けたセンスの光る選曲が魅力。リリースされた楽曲は海外のレーベルやDJによるサポートも受けており、今後の活躍が期待されるフィメールDJである。

AiMii
祖父の影響でジャズやブルースのレコードを聞いて育ち自身はピアノや歌を嗜み自然豊かな環境で育つ。
3.11の震災直後に大阪より上京。
その後アジア圏での活動を機にノンバーバルコミュニケーションに興味を持ち、ダンスミュージックに傾倒。現代心理学、ファッションカルチャーを学び、アーティストのメッセージ性を研究。
ファッショナブル、ヘルシービューティー、サステナブルな価値観で活動するも、2020年のコロナを機により表現の世界に飛び込もうと決意。Miss Supranational 2020 East Japan のファイナリストに選出され、モデルの世界へ。2022年4月にMiss Europe Continental 2022 の日本代表となり開催国イタリアへ渡航し世界大会に出場。イタリアのArt spirits に感銘を受け、帰国後再び音楽やアートの世界へ没入。
自然観を中心にしたエレガンスな美しさを大切にしつつ、ファッショナブルなクールなサウンドと時折見せる関西魂が特徴のAiMii。エモーショナルなアートを追求。
現在はエグゼクティブホテル、レセプションパーティー、ウエディングパーティ、クラブ・野外レイブ、ファッションショーやミスコンテストの選曲&編集まで様々なシーンで活躍。
Progressive house ・Melodic house・Techno・Minimal technoを中心に、Jazz・Disco・Latain ・Funk・80'など様々なHouseジャンルのパフォーマンスを行う。
これまで培った異文化を選り好みしないマインドから外国人のファンが多く、ファッショナブルなセンスで幅広いジャンルに挑戦。


Touch & Try
毎回ではありませんが【Touch&Try】という名前のコーナーが出ることがあります。
その名の通り、機材にいろいろ触れるコーナーです。
今回は【AIAIAI】さんから新登場したワイヤレスモニタースピーカーの【Unit-4】の音を体験出来たのでした。





司会
今回の司会はAMTのオーガナイザーであるKoyasとCD HATAです。
安定のコンビネーション。


Do Shock Booze「生音と電子音を接着させて理想のグルーヴを得る」
1人目の登壇者は【Do Shock Booze】さん。
読みは【どうしょくぶつ】さん。
意味は、読みそのままの【動植物】らしいです。
Liveが入ったPC1台でプレゼンです。

DJ、サウンドプロデューサー。熊本県出身。
2000年初期よりDJをスタート。
主宰レーベル<TOTEM TRAXX>を自身の音楽エネルギーの集約地点とし、ドイツの老舗レーベル<Traum>やDense & Pika (UK) 主宰の<Kneaded Pains>等、国内外のレーベルから数々の作品を発表。
プレイグラウンドとしては、東京を中心に日本各地のナイトクラブやDJ BARをはじめ、FUJI ROCK FESTIVAL、Re:birth Festival、Brightness、EN-Festivalなど数々の野外イベントへの出演、海外からのブッキングをこなし、Debug MgazineやMixmagなどの音楽メディアからのピックアップやインタビュー、レーベルポッドキャスト「TOTEMIX」ではコアなファンからの支持を中心に確実に再生回数を伸ばし、リミックスの提供、ファッションショーの音楽制作、各地イルミネーションへの楽曲提供などでも評価を高める。
2018年からはDeep&Tribalをテーマにしたテクノ・パーティーシリーズ「MEiYOU」や野外フェスティバル「GLOBAL ARK」を主宰、2023年には<Global Ark Recordings>を設立し、自身の楽曲のみに留まらず、共鳴するバラエティに富んだ良質な作品の探求を続けている。 ドウショクブツの音世界では、ダブの手法やオーガニックなアプローチを散りばめたサイケデリックの理想的な共存感、人間ならではの強かなチャレンジとユーモアなサウンドスケープが縦横無尽に表現されている。
ミックスとは?
まずはDo Shock Boozeさんならではのミックスの定義から。
曰く『ミックスダウンとは曲に愛情を持って最適化すること。例えるなら医者の診断のように、正しい形にする作業』とのこと。
『正解はないので自由に考えてもらっていい工程だと思う』とも。
以上を前提として『ミックスダウンに向かっての精神論的な話が出来たらいいな』とプレゼンを始めてくれたんですが、いやいや、今すぐ試せる実践的な内容が盛りだくさんでして。
Busを作る
複数のトラックをまとめたものを【Busトラック(バストラック)】と呼びます。
Liveの操作で言うと【グループ化】ですね。
Busトラックにする目的は音色的な意味で仲間同士を集めて馴染ませ、まとめやすくすることです。
たとえばベースならベース、シンセならシンセでまとめるといろいろ捗るわけです。
さらに、Do Shock Boozeさんは各Busトラックを
- Rhythm Bus⇒肉体
- Bass Bus⇒血液
- Synth Bus⇒神経
と、人体に例えていました。
たしかに漠然と【リズム】とか【ベース】と捉えるより、イメージが付きやすいかもですね。
【医者の診断】というなぞらえ方にも一致してますし。
グループ化の方法の話。
グループ化したいトラックをShiftキーまたはCtrl / Cmdキーを使いつつ複数選択後【Win:Ctrl G / Mac:Cmd G】でグループ化されます。

うるさい箇所を確認
ミックスしているとき、客観的に聴くのって難しいですよね。
たとえばKickをいじると耳がKickに集中しちゃうので、直後に全体を聴くときにどうしてもKickに耳がいってしまう…なんてことは多くの人が経験してるのではないかと。
そんなときのために役立つTipsを紹介してくれました。
Utility
Masterトラック(Live 12からはMainトラックに名称変更)にUtilityを入れ【Mono】にします。

これはどういうことかと言うと、最終的な出力をステレオからモノラルにすることを示します。
Panなどで左右に振られた音をセンターに集めることで、どこがうるさいかなどを確認出来るんですね。
スペクトラムアナライザー
スペクトラムアナライザーとは周波数分布を視覚化してくれるエフェクトです。
これでうるさい箇所を目で探すわけですね。
Liveにも【Spectrum】という名で用意されてますが、Do Shock Boozeさんはフリープラグインの【Voxengo SPAN】を使用。


LiveのSpectrumでは出来ない【MidとSideの同時表示】なども出来るので、自身のミックスだけではなくレファレンス音源の解析にも有効かと。
まあ、フリーなんでDLして損はないですよね。
akimもDLしました。
使い方は以下のページを参考にさせてもらってます。

生音の扱い
楽器演奏をRecしたものは文字通り生音ですが、サンプル音源とかも生音と言えば生音ですよね。
その【生音】の扱いについてのお話しです。
まず、大前提として【いい音でRecする】こと。
そして【自分で選んだ音には堂々と接する】こと。
いい音というのは『サンプルレートがどうこう』という話ではありません。
Do Shock Boozeさんは明言されませんでしたが、プレゼンの端々で感じられたのは『心に訴える要素を持った音』のことではないかと。
『いい音として聴こえない音は、バッサリと削除する覚悟が音楽には必要』とはDo Shock Boozeさんの弁。
これは『Recデータ自体を使わない』という意味でもあり、『不要な音域をEQでカット』という意味でもあります。
ミックス初心者にありがちな「なんかゴチャゴチャしてる」という現象の多くはEQで解決する可能性が高いです。
個々の音を、自分が思ってるよりも大きくカットしてみるとスッキリするはずです。
もちろん音が持ってる『らしさ』を失わないようなカットをするのが前提ですが。
これは宮川さんの項で出てくる【マスキング】に関わる部分でもあるので、そちらも読むことをおススメします。
Do Shock Boozeさんがプレゼンの題材として使った曲には尺八が使われてまして。
その尺八を生音の扱いについてのお話に使ってくれたんですが、この尺八の音がイイ!!
気になる方はチェックしてみてくださいね。

ミックスダウン
【ミックスダウン】、つまりミックスが終わってオーディオをエクスポート(書き出し)することですね。
このミックスダウンの後には【マスタリング】と呼ばれる、曲の最終仕上げが待っています。
マスタリング時にはEQやCompなどでいろいろな処理を施します。
この処理の過程で必要なのが【ヘッドルーム】。
ヘッドルームとは、頭から天井までの空間のこと。
音楽においては、オーディオデータの最大音量と0dBの間の隙間を意味します。
EQやCompなどでマスタリング処理をする際、ヘッドルームが無いと処理が大変なんです。
いえ、大変というか、そもそもマスタリング自体が無理な場合も出てきます。
なので、ミックスダウン時にはMasterトラックのPeakレベルを【-6.0dB】ほどにするのが通例です。
この【-6.0dB】がヘッドルームになるわけですね。
『-6.0dBって言われても、どうすれば??』と言う方、後述するSakura Tsurutaさんの項の中でTipsが紹介されます。
それを試してみることをおススメします。
また、書き出す前の最終チェックとして『(精神的な意味で)いろんな状況で聴いてから』とおっしゃってます。
体調や心の状況が変わると、曲の聴こえ方も変わりますからね。
可能な限りいろんな状況で聴いてから書き出すのは重要です。
ディザーオプション
Liveの【オーディオ/ビデオをエクスポート】画面には【ディザーオプション】という項目があります。
デフォルトでは【Triangular】に設定されてます。

本来、ディザーオプションとはレンダリング(オーディオ化)する際に生まれるノイズを抑えたりするための機能です。
が、Do Shock Boozeさんはこれを逆手にとって【デジタルに書き出す時に誤差が生まれノイズが生じる。このノイズをうまく馴染ませるための機能】という使い方を解説してくれました。
具体的には
- POW-r 1→テクノなど、コンプをよく使う音楽
- POW-r 2→声(ナレーションなど)
- POW-r 3→クラシックなど、ダイナミクスが広い音楽
として、通常は【POW-r 1】にしてるそうです。
Ableton公式マニュアルでは『Pow-rモードは、マスター段階へと送信される素材に対して絶対に使用されるべきではありません。 最終出力にのみ使用します。』とあります。
つまりマスタリング前の段階であるミックスダウン時の使用は推奨してません。
(「5.ファイルとセットを管理する」内の「5.3.3.3 エンコードオプション」を参照)
でも、考えてみたらマニュアルにとらわれすぎるのもおかしな話ですよね。
ただし、ノイズが乗ることがあるのは事実です。
ディザーオプションを試す場合は、書き出した後の音源をじっくり聴きましょう。
Q&A
Q:Masterトラックの音量に余裕がない(ヘッドルームを取れない)時の直し方は?
A:各トラックにVUメーターを入れて、プラグイン(エフェクト)をかける前にチェックするのがいいんだけど、手間はかかる。各トラックの音量調整もアリ。
オートメーションを描いた後なら、Utilityで下げる方法もアリ。
Q:Mixでよく使っているエフェクトは?
A:Busトラックに入れているのはGlue Compressor。各Busトラックで同じ設定にすることで馴染むから。Makeupを10時方向にすると馴染みが良い。
Glue CompressorはLiveに入っているエフェクト。
『Glue』は接着剤を意味し、馴染みを良くするような設計が元からされている。
Q:次の日聴いて「最悪」となった時、メンタルをどう保ちますか?
A:DJで流して盛り上がっている状況を想像してモチベーションを上げる。もしダメならまた寝るww
Q:サンプルレートやビットデプスは?
A:最初は16bitでやっていたが、いい音でMixした方がやっぱりいいので、今は24bitの48kHz。
96kHzなどにしちゃうと、ノイズも増えてくるので、作業が増えてしまうので要注意。
96kHzだと音にパンチがなくなるのと、再生できない人が多いという問題があるので注意が必要
Q:Panの振り方のコツは?
A:大胆に振った方が良い結果を得られやすい。ちょっと振ったくらいだと邪魔になることも。ステレオのサンプルはMonoにしてからPanningしている。
akimの一言
『精神論的な話が出来たらいい』で始まったのに、終わってみれば実践的なTips満載だったことに驚きでしたww
うるさい箇所の確認をするためにモノラルにするとか、ディザーオプションを積極的に活用するとかは、正直言って僕は思いつきませんでした。
いや~、勉強させてもらいました。
【曲に愛情を持って最適化する】ことを忘れずにMixしようと肝に銘じたのでした。




Sakura Tsuruta「ミキシング101:トラックを書き終えたらまず最初に」
AMTへの登壇は3回目?4回目?
わかりやすい言葉遣いですぐにでも役立つTipsをいつも紹介してくれます。
事実、AMTのYouTubeチャンネルではSakuraさんが登壇した動画が最高の再生数だそうです。
AMT Vol.29 "壁にぶち当たった時にトライしてみよう「効率の良いサボり方」" by Sakura Tsuruta
今回は『マスタリング前の音源をエンジニアに渡すのもトピックの1つ』という前置きでプレゼン開始。
セットアップは、Live 12が入ったPCのみ。
ちなみに、タイトルの『101』とは大学で最初に取らなきゃいけない授業のことなんだとか。

7年に渡るアメリカ生活を終え、2017年に帰国、東京を拠点に音楽家として活動を始める。
2019年にシングル「Dystopia」をリリース後、ブランドや企業とのコラボレーション、教育分野での活動も積極的に行いながら、2023年Album 「C / O 」をアナログレコードとデジタル配信で発表。
同年Forbes Japanのいま注目すべき「世界を救う希望」100人を特集した号にて表彰を飾った注目のアーティスト。
前提
まず、Sakuraさんは自分を『曲のアイデアを100%出し切ってから、曲の完成形にコミットするというストイックなタイプ』と評しました。
それには理由があって【アイデア段階で直せなかったものはMixでも直せない】から。
DAWでの作曲初心者さんは『アイデアの足りなさをミックスで埋める』とか『ミックスの拙さをマスタリングで補う』などと考えがちですが、コレ、無理です。
厳密にいえば『取り繕う』ことくらいは可能ですが、基本的に無理だと考えるのが正解です。
ということで【アイデアを出し切ってからミックスに入った段階】という前提で話が進みます。
Tips.1:アレンジメントビューへ
空っぽのLive Setのアレンジメントビューにパラ出しした音源を並べるところからスタート。
パラ出しした音源を一気にアレンジメントビューに並べる場合は、音源を複数選択して【Win:Ctrl / Mac:Cmd】キーを押しながらアレンジメントビューにドラッグ&ドロップすればOK。
音源ごとに別々のトラックへ入れてくれます。
【Win:Ctrl / Mac:Cmd】キーを押さずにドラッグ&ドロップした場合、1つのトラックに音源が並びます。
パラ出しとは、この場合では各音(Kick、HH、Bass、Gt、Pianoなどなど)をそれぞれオーディオデータとして書き出すことを指してます。
リズムマシン等で各音(Kick、Snare、HH等)をそれぞれ、別の出力に送ることもパラ出しと言います。
トラックの順番は【曲の主役となる要素】から並べていくのがSakuraさん流。
プレゼンの題材として取り上げてくれた曲はクライアントさんから『疾走感が欲しい』という要望を受けて作った曲。
なので、疾走感を担うKickやPercussionなどをトラックの並び的な意味で上に置きますよ、と。
また、この段階でトラック名やトラックの色決めをするのがSakuraさん流。
『重要なトラックは目につく赤』とか『似た要素の音は似た色にする』などがSakuraさんのルールです。

Tips.2:レファレンス音源を準備
レファレンス音源とは、直訳すると参照音源のこと。
つまり、見よう見まねをするための音源ってことです。
今回の曲に関してはクライアントさんから『こういう感じの曲をお願いします』と渡された音源がレファレンス音源となってます。
そして、自身の曲を客観的に、かつ積極的に聴き、レファレンス音源と比べます。
さらに、レファレンス音源をSpectrumで解析して目でも比べます。
そのとき、周波数などの数値だけではなく、聴こえ方もちゃんと解析しましょう。
たとえば『こんなにHiが鳴ってるのにLo-Fiっぽく聴こえるんだぁ』などのように。
自身の曲もSpectrumで解析するわけですが、その際は音が重なってるところに注目しましょう。
Sakuraさん曰く『水彩画でもいろんな色を重ねると濁る。音の場合、100Hzあたりが濁る原因』とのこと。
耳は最重要ですが、せっかくのSpectrumですから目も活用すれば制作が捗りますね。

Tips.3:UtilityをMasterトラックに入れる
Do Shock Boozeさんもおっしゃってましたが、ミックスダウン後はマスタリングという過程に進みます。
このマスタリングという過程は曲の最終仕上げに当たるわけですが、EQやCompなどでアレコレするため、ヘッドルームと呼ばれる音量的な隙間が必要になります。
Sakuraさん流に言うと『ヘッドルームとは、トランポリンを気持ちよく跳べるような天井と頭の間のスペース』と、なります。
数値的には【-6.0dB】程度のヘッドルームをマスタリング担当さんから要求されるのが通常です。
さて、この【-6.0dB】はどう作りましょう。
ミックスに慣れてる人であればなんとなく出来るとは思うんですが、ここでSakuraさんから美味しいTipsの話が。
MainトラックにUtilityを入れてGainを【6.0dB】にしましょう、と。
注目すべきは「-(マイナス)」ではなく「+(プラス)」です。
この理由は次の【Tips.4】で明らかになります。

Tips.4:耳を信じて、画面を見ずに
さて、ミックス開始といきましょう。
まず、全トラックのVolumeを最小値(一番下)まで下げます。
そこから、最初に並べたトラック順にVolumeを上げていきます。
(曲における重要な要素から並べた意味がここで発揮されてますね)
この曲ではKickが主役なので、まずはKickの大きさを決めます。
次に、そのKickを基準として他のトラックのVolumeも上げていきます。
Volumeを上げるときは、自身の耳を信じて画面を見ずにやりましょう。
目を閉じてもいいし、画面を暗くしてもOK。
とにかくVolumeフェーダーをなるべく見ないようにして、Volume調整です。

すべてのトラックを上げたら、MainトラックのVolumeフェーダーを確認します。
赤くなっていなければ(クリップしていなければ)OK。
もしクリップしていたら、全トラックのVolumeフェーダーを下げましょう。
トラックを全選択してVolumeフェーダーを下げれば、一気に下げられます。
クリップしなくなるまで下げればOK。
さて、ここで先ほどのUtilityを入れた意味がわかります。
UtilityをOffにすれば、-6.0dBのヘッドルームが生まれることになるわけですね。
あら、簡単。

ここからPanningやCompなどの作業に入るわけですが、ここまでの段階がすごく重要なのでおろそかにしないことをおススメします。
Q&A
Q:各パート間のバランスの取り方は?
A:最初にやるとしたらEQ。
自身にとってEQの捉え方は…オーケストラのように楽器それぞれがスペースを持ってなきゃいけないのでそのためのツール。各演奏者の音がケンカし合わないようにEQで整えるといいと思う。
もちろん、楽器ごとの特色は尊重した上で、の話です。
Q:ミャンマーで教えている理由は?
A:制作担当の先生がクーデターで亡命してしまったので。最初はボランティアとしてやっていたが、今はちゃんとした先生として教えている。
Q:先生になったことで視点は変わった?
A:教えることによって気づくことが多い。
大事なことを丁寧にやっていけばいい音楽は作れる。
Q:Mixする順番は?
A:全体の音量を整えた後、Panningに着手する。空間を大事にしているから。
曲の雰囲気やTPOに合わせて順番を変えることもあり。
クライアントワークが多いので、依頼によって順番が変わることも多々あり。
Q:レファレンストラックが提示されない場合、レファレンスの探し方は?
A:注目しているのはアイデアよりも空間。レファレンスが複数ある場合は、曲によっていいとこ取りする。
akimの一言
UtilityのGainを上げておいてヘッドルームを作る方法は思いつかなかった~!
さすがSakuraさん、いろんなTipsをお持ちですなぁ。
そして【大事なことを丁寧にやっていけばいい音楽は作れる】は至極名言ですね。
『前回はこれで上手くいったから』なんて経験に頼って丁寧さをおざなりにしてしまうこと、あるんじゃないですかね?
【大事なことを丁寧に】は、忘れちゃダメですね。




宮川智希「ミックスで奥行きを生み出す方法」
Ableton認定トレーナーであり、Sleepfreaks講師でもある宮川智希さんの登場。
作曲・編曲家としての経験にプラスして講師のキャリアもあるわけですから、わかりやすくてためになる話が満載でしたね。
そしてプラグインを使いまくりなので、ミックスに役立つプラグインをお探しの方、参考になるはずです。
セットアップはLive 12が入ったPC1台。
『音に立体感を出す方法についての実践的なお話』という前置きの上でスタートです。

アーティストとして、Lo-fi、Indie Rockなどの生音を主体とした音楽から、エレクトロニカやTechnoなどの電子音楽など様々なジャンルを経験し、2013年からは作曲・編曲家として主にポップスを中心とした音楽制作を行う。
これらで培ってきた様々な制作経験を基に2016年よりインストラクターとして指導を開始し、特定のジャンルに限定しない表現したい内容に適したワークフローを伝え、アーティスト性を重視した指導を行う。
現在はオンラインDTMスクールのSleepfreaks (https://sleepfreaks.co.jp) で講師として、音楽理論を含む基礎から楽曲完成に至るまでの幅広い内容のレッスンを行っており、これまで200名以上の方への指導実績がある。
Ableton Liveはバージョン8より本格的に楽曲制作に取り入れて以降、メインDAWとして使用し、Max for Liveデバイスを活用したLiveならではの制作手法の解説も行う。
音の前後ってなんだろう?
そもそも【音の前後】ってなんでしょう?
現実世界なら物理的な前後が存在しますが、DAW上で物理的な距離を再現するのは難しいです。
また、音の距離感自体も主観によって変わりますからね。
ということで、宮川さんは【音を無理やり聴かせるか否かが、音の前後じゃないか?】という考えでお話を進めます。
Liveには距離や定位を操るためのPackやエフェクトが用意されてます。
過去に僕が紹介した中では【Align Delay】や【SPAT Stereo】などですかね。
興味ある方は参考にしてみてください。
要素の1:Volume
先の【音を無理やり聴かせるのが前】という考えに従えば、まずはVolumeを上げると音が前になると言えますね。
要素の2:周波数
次に周波数的な要素も考えます。
現実世界では聴こえてる音にEQ処理というのはありえませんが、DAWならそれが出来ますから。
【VocalのHiを上げる】というのは、定番のテクニックです。
やはりVocalは前面に出てきて欲しい音ですからね。
逆に、音を後ろに回したい時はHiを下げるのが定番。
まあ、前に出すときにHiを上げるなら、当然の答えと言えばそうですね。
あ、簡単に『Hi』と言ってますが、具体的に『○○Hz』というわけではありません。
音源によって変わりますからね。
自分の耳を信じて上げ下げしてください。
宮川さんはM4Lデバイスの【Volume Buddy】を使って数値でも確認してました。
これは【エフェクトの前と後の音量比較プラグイン】なので、いわゆる『エフェクトを入れたら音量が上がって、音が良くなったように聴こえる現象』を避けるために使ってるそうです。

他には【Volume compensator】というM4Lデバイスもあります。
これは以前、Ableton公式X(当時はまだTwitter)で紹介してくれてましたね。
補足終了。
次にマスキングを処理しましょう。
人間の耳は『知覚しやすい音は近くに感じる』という性質を持っているのでマスキング、つまり周波数の被りを処理することによって音を聴こえやすく(知覚しやすく)させます。
宮川さんが使ってるのは【MMultiAnalyzer】というプラグイン。
これは【複数トラックの周波数を表示】することが出来る、つまり被りを視認しやすく出来るので使用してるそうです。


被りを確認したら、それぞれのトラックをEQで処理します。
この処理に使うのは、Liveの【EQ Eight】。
『iZotopeのNeutronなどもマスキング処理ツールなので使うのもアリ』ともおっしゃってたので、もし『持ってるけど使ってない』なんて方はトライしてみるのもいいのでは?
宮川さん曰く『ミックスは(地味だけど)この作業の連続。経験値が物を言うところなので難しいけど、まずはマスキングの処理をすると悩みが解消するかも』とのこと。
『自分のミックスは、なにかスッキリしない』と悩んでる方、マスキングの処理をしてみるのがおススメです。
要素の3:基音
次に、基音に処理を施します。
基音とは【音の成分の中で、その音の高さを決定づける音】です。
EQで言うと最低音域の音のことです。
じゃあ基音じゃない音はと言うと、これはよく聞く【倍音】です。
基音をはっきりさせることでその【音】自体が持つ力を強めましょう、ってアプローチですね。
これも宮川さんはプラグインを使って対応。
そのプラグインの名は【SurferEQ 2】。

このプラグインは選択した帯域を追従します。
つまり、基音に対して設定すれば基音が動いてもそれに対してEQが自動で動いてくれるという優れもの。
これで、聴かせたい音を近くに聴かせる、つまり近接効果が狙えるとのこと。
要素の4:ピーク
特定の音域、ここではその音が持つ『らしさ』を上げることを指します。
EQで処理するのが簡単ですね。
宮川さんはPro-Q3も活用してるみたいです。

ただし、やり過ぎには注意しましょう。
『この作業は最初の段階よりも後からやるのがおススメ』だそうです。
ダイナミックレンジ
ダイナミックレンジ、つまり音量の大小ですね。
ダイナミックレンジが大きいと近くに感じます。
具体的にはアタックを感じさせると音を耳で追いやすくなるので、結果的に手前で聴こえさせるようにすることが狙えます。
これも、役に立つプラグインを使って解説してくれました。


この【spiff】というプラグインは【トランジェントを管理するエフェクト】です。
トランジェントとはよく【音の輪郭】と説明されます。
スネアの『タンッ』という音は輪郭がくっきりしてますが、弓でやさしく弾いたバイオリンの音は輪郭がはっきりしませんよね。
同様に、マイクに近づいて歌えば輪郭がはっきりしますが、離れて歌えばはっきりしません。
輪郭をはっきりさせることで『知覚しやすい音は近くに感じる』効果を狙うわけです。
Compでも似たような効果を得られます。
宮川さん曰く『【PeakをOn / Kneeはゼロ / Ratioは好み】がおススメ設定』とのこと。
アタックを強調すれば音は手前に、アタックを潰せば輪郭が消えていくので奥に回せます。
ただ『プラグインの方が楽』だそうです。
さて、最後に重要な話が。
『どのエフェクトを使うかは曲が何を求めているかによる』です。
これらプラグインを使ったとしても、その曲にとって最適のミックスになるかどうかは別の話。
Do Shock Boozeさんもおっしゃってましたが『ミックスダウンとは曲に愛情を持って最適化すること』を忘れてはいけませんね。
技術に走って曲の本質をおざなりにするのは本末転倒ですから。
Q&A
Q:インストゥルメント内で音作りしてからプラグイン?
A:いいえ。音はプリセットでもOK。フレーズとかを作ってからプラグインを使います。
Q:Mixが苦手。何を手前にして奥にするのかの考え方は?
A:曲によって変わるが、何を聴かせたいかが重要。曲に音を重ねたときに常に天秤にかけて重要度を図る
Q:ラフミックスはかっこよかったのに、手を入れると「え?」と言う現象への対処は?
A:手を入れすぎるとかっこよさが消えるのはよくある。元々ある箱に情報を詰め込みすぎてる状態なので、トラックを消していく…かなぁ。難しいなぁ。
Q:基音と倍音は楽器によって違うが、アプローチの基準は?
A:はっきり聴かせたい音は基音をハッキリさせる。質感等は基音の場合は立たせない方がいいと言うのが経験からの1つの答え。
Q:手前の音を奥に(あるいは逆)に曲中でしたい場合の対処は?
A:オートメーションを描くのではなく、トラックを複製して対処する。
Q:音作りの段階で例えば「アタックを立てたい」と思った場合、音作りでやるか、Mixでやるかはどう線を引く?
A:僕はあまり考えない。今やってることの近いところから手を付ける。
akimの一言
正直言って僕はあまりプラグインを使いまくるタイプではないのですが、今回のプレゼンを観てちょっと興味が出てきちゃいました。
こんなに便利なプラグインが世の中に溢れているとは…。
勉強不足を反省です。
ただし、それらのプラグインが(便利なのはわかるけど)自身の曲や出したい音に合ってるとは限らないので、そこは忘れちゃいけないですね。
プラグインに使われるような立場になっちゃうと、もう何が何だかですからww




ということで、今回のAMTも盛況のうちに終了です。
どんなジャンルであれ、曲を完成形に持っていくには【ミックス】という段階は避けられないですからね。
僕もたくさん勉強になりました。
『次回のAbleton Meetup Tokyoも楽しみ!』という方は、AMT公式のアカウントをフォローしておいてくださいね。
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